SECIモデルとは?野中郁次郎の4プロセス・身近な例・エーザイ/NTT東日本/トヨタ事例で学ぶ実践ガイド
SECIモデル(セキモデル)は野中郁次郎・竹内弘高が1995年に提唱した知識創造の4プロセス。共同化・表出化・連結化・内面化を「同行営業」「マニュアル化」など身近な例で解説し、エーザイ「hhc」/NTT東日本「創発場」/トヨタ「カイゼン」/富士ゼロックスの実装事例、AI時代の活用法までを整理します。

SECIモデル(セキモデル)とは、野中郁次郎・竹内弘高が1995年『The Knowledge-Creating Company』(Oxford University Press) で提唱した、組織の知識創造プロセスを共同化(Socialization)・表出化(Externalization)・連結化(Combination)・内面化(Internalization)の4段階で体系化したフレームワークです。エーザイ「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」、NTT東日本「創発場」、トヨタ「カイゼン」、富士ゼロックスの設計現場交流など、実在企業がSECIモデルを起点にイノベーションを生み出してきました。
本記事は SECIモデルの4プロセスを身近な例で深掘りする specialize 記事 です。ナレッジマネジメント全体の入門・実践ステップを探している方は、姉妹記事 【2026年版】ナレッジマネジメントとは?SECIモデル4プロセスと成功へ導く6つのポイント を起点に読み進めてください。本記事では、4プロセスごとの身近な例・実在企業の実装事例・「セキモデル」読み方や覚え方など、SECIモデルそのものに絞った詳細解説を行います。
SECIモデルとは|野中郁次郎が定義した知識創造の4段階
SECIモデル(セキモデル)とは、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏と竹内弘高氏(現ハーバードビジネススクール上級講師)が、1995年の共著『The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation』(Oxford University Press、日本語版『知識創造企業』東洋経済新報社) で提唱した、知識創造のプロセスを4段階で体系化したフレームワークです。
SECIという名前は、共同化(Socialization)・表出化(Externalization)・連結化(Combination)・内面化(Internalization)という4つの知識変換プロセスの頭文字に由来します。原著では、日本企業が暗黙知と形式知の絶え間ない相互変換によって組織的にイノベーションを生み出してきた実証分析が示されました。
「SECI」の読み方は「セキ」(SE-KI、または「セキ・モデル」)です。ローマ字読みで「セシ」と読まれることもありますが、野中郁次郎自身の講演や日本知識経営学会の用法では「セキ」が標準とされています。
SECIモデルは個別のツール論ではなく、個人 → グループ → 組織 → 組織間 へと知識が螺旋(スパイラル)状に拡大していくダイナミクスを描き出した点に独自性があります。次章で、4プロセスを順に身近な例で見ていきましょう。
SECIモデルの4つのプロセス|身近な例で学ぶ

SECIモデルの4プロセスは、暗黙知(Tacit Knowledge)と形式知(Explicit Knowledge)を行き来する循環構造を取ります。プロセスは共同化 → 表出化 → 連結化 → 内面化 → 新たな共同化… の順で螺旋的に回り続ける点が、SECIモデルの本質です。各プロセスを身近な例とともに見ていきましょう。
1. 共同化(Socialization:暗黙知 → 暗黙知)
共同化とは、個人の暗黙知を、他者と経験を共有することで新たな暗黙知へ伝達するプロセスです。OJTや同じ空間での共同作業を通じて、ベテランの勘やコツといった言語化しにくいノウハウを直接受け継ぎます。
身近な例:
- 新入社員がトップ営業に同行し、商談での間合いや顧客との空気感を肌で学ぶ「同行営業」
- 寿司職人の弟子がカウンター越しに師匠の包丁さばきを見続けて手の感覚を覚える「見て覚える」
- リモートワーク下で、新人がベテランの画面共有を眺めて作業フローを盗み見るバーチャル同席
いずれも「言葉での説明ではなく、体験の共有」で暗黙知が伝播する点が共通しています。
2. 表出化(Externalization:暗黙知 → 形式知)
表出化とは、個人の頭の中にある暗黙知を、言葉・図解・概念モデルなどの形式知に変換するプロセスです。営業担当者の「ヒアリングのコツ」を「質問項目シート」に落とし込むなど、誰が見ても同じ行動を再現できるように明文化します。
身近な例:
- ベテラン整備士の「異音判定ノウハウ」を音の周波数と症状の対応表に整理する
- カスタマーサポートの問い合わせ対応ログを類型化し、FAQ や応対マニュアルに転記する
- レシピを持たない料理人の手順を、グラム単位の分量と火加減タイマー指示まで含めた書面に書き起こす
野中郁次郎は表出化を「メタファーや概念モデルを使って暗黙知を言語化する、SECI循環で最も難所となるプロセス」と位置付けています。AI時代の現在は、議事録の自動文字起こしや音声→マニュアル生成AIが、この表出化の難所を大幅に支援しています(後述「AI時代の活用法」参照)。
3. 連結化(Combination:形式知 → 形式知)
連結化とは、言語化された形式知を体系化し、新たな形式知を創造するプロセスです。営業部門の提案書と開発部門の技術仕様書を紐づけ、全社で横断的に活用できるFAQや統合データベースを構築するアプローチが該当します。
身近な例:
- 複数支店の月次報告書を BI ツールで横串集計し、地域別の売上要因を可視化する
- 全社で散在する Word マニュアル・PowerPoint 研修資料を Confluence や Notion に統合し、検索可能な単一ナレッジベースを構築する
- 過去3年分の提案書 PDF を RAG (検索拡張生成) でベクトル化し、生成AIで横断検索する
近年は連結化の効率を大きく高める手段として、生成AIによる横断検索やRAGの活用が進んでいます。RAG の具体的なクラウド実装は 【2026年版】セキュアRAG実装ガイド|AWS Bedrock・Azure AI Search・Vertex AIの3クラウド比較 も参考にしてください。
4. 内面化(Internalization:形式知 → 暗黙知)
内面化とは、体系化された形式知を実際の業務で活用し、再び個人の暗黙知として定着させるプロセスです。マニュアルや手順書として共有された知識を繰り返し実践することで、個人の新たなスキルへと昇華させます。
身近な例:
- マニュアル化された電話応対スクリプトを 100 件こなすうち、台本を見なくても自然な会話ができるようになる
- 自動車教習所で学科テキストの内容を路上教習で何度も実践し、運転動作が無意識化する
- アジャイル開発のスクラムガイドを読んだエンジニアが、毎日のデイリースクラムを重ねて自然にチームを進行できるようになる
内面化を経た暗黙知は次のサイクルで再び共同化に投入され、SECIモデルは螺旋状に組織のナレッジを高度化させていきます。
4プロセスの順番と覚え方
「SECI」のアルファベット順=共同化(S) → 表出化(E) → 連結化(C) → 内面化(I) の順で記憶するのが最もシンプルな覚え方です。プロセスの動きを暗黙知/形式知の変換で整理すると次のとおりです。
| 順 | プロセス | 略号 | 変換方向 | 1秒で覚えるキーワード |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 共同化 | S | 暗黙知 → 暗黙知 | 同行・体験共有 |
| 2 | 表出化 | E | 暗黙知 → 形式知 | 言語化・マニュアル化 |
| 3 | 連結化 | C | 形式知 → 形式知 | 統合・横断検索 |
| 4 | 内面化 | I | 形式知 → 暗黙知 | 反復実践・体得 |
この4プロセスが個人 → グループ → 組織 → 組織間と次元を拡大しながら螺旋状に回り続ける現象を、野中郁次郎は 「知識スパイラル(Knowledge Spiral)」 と呼びました。
SECIモデルを支える「場(Ba)」の概念
野中郁次郎と紺野登は1998年の共著論文 "The Concept of 'Ba': Building a Foundation for Knowledge Creation"(California Management Review, Vol.40, No.3, Spring 1998) でSECIモデルを補強する「場(Ba)」の概念を提唱しました。場とは、知識創造が起きる物理的・仮想的・関係的な空間のことで、各プロセスに対応する4種類があります。
| 場 | 対応プロセス | 概要 |
|---|---|---|
| 創発場(Originating Ba) | 共同化 | 直接対話や経験の共有で暗黙知が交換される空間 |
| 対話場(Interacting / Dialoguing Ba) | 表出化 | メタファーや概念で暗黙知を言語化する場 |
| システム場(Cyber / Systemising Ba) | 連結化 | 形式知を体系化・統合する仮想空間 |
| 実践場(Exercising Ba) | 内面化 | 形式知を業務で実践し暗黙知化する場 |
SECIモデルを実装する際は、4プロセスごとに対応する「場」が組織内に存在しているかを点検すると効果が高まります。たとえば「マニュアルだけ整備しているが、新人がベテランと直接対話する創発場が存在しない」というケースは、知識スパイラルが共同化の段階で止まりがちです。
SECIモデルの実在企業事例
エーザイ|「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」と共同化の徹底
医薬品メーカーのエーザイは、SECIモデルが発表されて以降、最も早期に経営原則として体系的に取り入れた企業として知られています。エーザイは企業理念「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」のもと、グローバル全社員に対し就業時間の1%を患者・生活者と過ごすことに充てる運用を推奨しています(出典: エーザイ ヒューマン・ヘルスケア(hhc)公式ページ)。
患者の生活現場での体験を社員が直接共有することで「言葉にならない患者の想い」を暗黙知として組織に蓄積し、新薬開発という形式知化に結びつけてきました。SECIモデルの4プロセスのうち、共同化(創発場)を最も重視している点が特徴的な事例です。
NTT東日本|オフィス空間で4つの「場」を実装
NTT東日本は、1996年に法人営業本部でSECIモデルを実装した取り組みで知られています。オフィスを「ベースゾーン(フリーアドレスの作業スペース)」「クリエイティブ・ゾーン(打ち合わせスペース)」「コンセントレーション・ゾーン(集中作業スペース)」「リフレッシュゾーン」の4つに区分し、ベースゾーンで異なる部署の偶発的な対話を生むことで創発場として機能させています。
加えて、営業本部全社員の個人ホームページに日報・提案書・関わったプロジェクトの記録を掲載し、各課・部のホームページにも「知識ベース」を構築することで、システム場を実装しました。物理空間(リアルな場)と情報基盤(バーチャルな場)の両面で、SECIモデルの4プロセスを継続的に回す仕組みです。
トヨタ|カイゼン活動とSECIモデル
トヨタ自動車の「カイゼン」活動は、現場作業員の暗黙知(身体で覚えた作業のコツ)をボトムアップで形式知化し、全社的な標準作業手順へ反映する仕組みとして、SECIモデルの代表的な実装例と評価されています。
- 共同化: 班長と作業員が同じラインで作業し、勘所を共有する
- 表出化: 作業員の改善提案を「改善カード」に書き起こし、班ミーティングで議論する
- 連結化: 採択された改善を標準作業手順書に統合し、全工場へ展開する
- 内面化: 新しい手順書をもとに作業員が反復練習し、新たな暗黙知として体得する
カイゼン活動は、4プロセスが現場発で日常的に回ることで知識スパイラルが継続するモデルです。
富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション)|部門間訪問とオンライン共有基盤
富士ゼロックスは製品開発の最終段階での設計変更と開発期間延長という課題に対し、技術者・設計者が互いの現場を訪問してノウハウを共有するアプローチを採用しました。さらに、共有された暗黙知をオンラインの情報共有システムで選別・編集して全社で参照可能な形式知へ転換し、設計初期段階で部門横断の知見を反映できる体制を整えました。共同化(現場訪問)→表出化・連結化(オンライン共有基盤)→内面化(新製品設計への反映)を一体で運用した事例として知られています。
AI時代のSECIモデル活用法
2026年の現在、SECIモデルの4プロセスは生成AIによって大きく加速できる状態にあります。
| プロセス | AI活用の例 |
|---|---|
| 共同化 | Web会議の録画+自動文字起こしで、出席できなかったメンバーが疑似的に同席体験を共有する |
| 表出化 | 議事録AI・マニュアル作成AIで、暗黙知の言語化を半自動化する |
| 連結化 | RAG(検索拡張生成)で散在する形式知を横断検索し、新しい知見を合成する |
| 内面化 | AIロールプレイ・シミュレーション環境で、形式知を反復実践し体得を加速する |
表出化と連結化を加速する具体ツールとしては、マニュアル作成AIおすすめツール5選|無料で使える比較基準と業務効率化のメリット、【2026年版】Notion AIで何ができる?7つの基本機能とAI Meeting Notes・Custom Agents活用ガイド も合わせて参考になります。社内全体でSECIモデル × AIを進める導入ステップは 【2026年版】ナレッジマネジメントAIで属人化を解消する7ステップ|社内検索を変える導入の型 でさらに深掘りできます。
SECIモデルの問題点・限界と回避策
SECIモデルは1995年に提唱された理論であり、現代の運用では以下の論点が指摘されています。
| 指摘 | 内容 | 回避策 |
|---|---|---|
| 暗黙知/形式知の二分法は粗い | 実務知は両者の中間が多く、2分類では収まらない | 実装側で「半暗黙知(コツ+メモ)」帯を許容するテンプレート設計を行う |
| 共同化が対面前提 | リモートワーク時代に創発場が成立しづらい | バーチャル創発場(オンライン雑談・画面共有)を意図的に設計する |
| 個人の心理的安全性が前提 | 安心して暗黙知を出せない組織では循環が止まる | 1on1や評価制度で「共有することを評価する」設計を併用する |
これらは「SECIモデル不要論」ではなく、現代に合わせた運用条件の補強として理解するのが妥当です。
よくある質問(SECIモデル)
SECIモデルの提唱者は誰ですか?
SECIモデルは一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏と、当時の同僚であった竹内弘高氏(現ハーバードビジネススクール上級講師)が、1995年の共著『The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create the Dynamics of Innovation』(Oxford University Press、日本語版『知識創造企業』) で提唱しました。
「SECI」はどう読みますか?
「セキ」(SE-KI)と読みます。「セキモデル」「セキ・モデル」と表記されることもあります。野中郁次郎の講演や日本知識経営学会の用法では「セキ」が標準です。
SECIモデルの4プロセスの順番は?
共同化(S) → 表出化(E) → 連結化(C) → 内面化(I) の順で回り、4周目以降は新たな次元の共同化へと螺旋状に上昇します。これを野中郁次郎は「知識スパイラル」と呼びました。
暗黙知と形式知の違いは何ですか?
暗黙知とは、個人の経験や勘、職人技など言語化しにくい知識を指します。形式知とは、マニュアルやデータベースのように文章や図表で客観的に表現され、誰でも共有・活用できる知識のことです。SECIモデルはこの暗黙知と形式知を相互変換するプロセスを4段階に分類しています。
SECIの「連結化」と「結合化」はどちらが正しい表記ですか?
Combinationの日本語訳としては「連結化」が標準的に用いられます。野中郁次郎の論文や日本知識経営学会、グロービス経営大学院、Wikipedia などの主要な解説でも「連結化」が採用されています。文献によって「結合化」とする記述もありますが、原典系の正式訳は「連結化」です。
SECIモデルの覚え方のコツは?
アルファベット順 SECI=共同化・表出化・連結化・内面化 と、変換方向「暗黙→暗黙→形式→形式→暗黙」を組み合わせて覚えるのが定番です。「Same場でShareして、External化、Combine、Internalize」のように頭文字キーワードで紐づけると忘れにくくなります。
SECIモデルは古い理論ではないですか?
提唱は1995年ですが、4プロセスの本質(暗黙知↔形式知の循環)はAI時代でも有効です。むしろ生成AIによって表出化・連結化が劇的に加速し、SECIモデルは「AIで何を自動化し、何を人が担うか」を整理する設計図として再評価されています。
まとめ
SECIモデルは野中郁次郎・竹内弘高が1995年『The Knowledge-Creating Company』で提唱した、共同化・表出化・連結化・内面化の4プロセスからなる知識創造のフレームワークです。読み方は「セキ」、覚え方は SECI の頭文字順と「暗黙↔形式」の変換方向をセットで把握するのが定番です。
エーザイ「hhc」、NTT東日本「創発場」、トヨタ「カイゼン」、富士ゼロックスの部門間訪問のように、SECIモデルを起点に4プロセスを継続的に回している企業はイノベーションを生み出してきました。AI時代の今は、議事録AIやRAGによって表出化と連結化が大きく加速しており、SECIモデルは「AIと人の役割分担を設計する図面」として再び注目されています。
ナレッジマネジメント全体の入門・成功ポイントを俯瞰したい方は、姉妹記事 【2026年版】ナレッジマネジメントとは?SECIモデル4プロセスと成功へ導く6つのポイント を、AIを軸にした実装ステップは 【2026年版】ナレッジマネジメントAIで属人化を解消する7ステップ を、そのままお読みください。




